母よ あなたは強かった
母は今年の8月で64歳。
なんとこの年にして、故郷福岡の自宅を売り払い、全てのしがらみを捨て、息子と孫が暮らす街、花の都大東京へと引っ越してきたという、なかなかの傾奇者。
そんな母を形作る要素の一つに、「言葉のファウルチップ」というものがある。
簡単に言えば、ただの言い間違いである。だから、立派な空振り三振ではあるのだが、その間違え方が、おそらく彼女がアウトプットしたかったであろうその言葉に、絶妙にかすってるため、受け取る側も何がいいたかったのか汲み取れてしまう。言い間違えてるからアウトなのだが、バットにはかすっているため、ファウルチップを捕球されてのスイングアウトである。
例えばある日、母と二人でレトロな雰囲気のお店に入った時のこと。
母はキラキラと目を輝かせながら店内を見渡し次のようにのたまった。
「わぁ~、素敵な店やね~。レトルトやね、レトルト~。」
また、ある時、テレビにジャン・レノが映った時のこと。母は彼の事をこう呼んだ。
このようなファウルチップが多い母だが、スイングの思い切りの良さが、こちらにも気持ちが良いので、たいがいはただの天然で片づけて流していた。
だが、時には、天然などと可愛らしく片づけられない間違いもある。
あれは、テレビがアナログ放送から地上デジタル放送に切り替わる、その移行期間の頃のことだ。
その頃のNHKのニュースは、メインニュースの画面の周りに余白を作り、サブ的に小さなニュースを字幕スーパーで流していた。
ある時、その余白画面の字幕ニュースで、
『 ソフトバンクホークスが ペタジーニ(36) を獲得 』
というのが流れた。
その直後、母が放った言葉は、ファウルチップを通り越して、キャッチャーのどたまをかち割った。
「ええ?!ベジータが?!」