腐れ縁
来る日も来る日も終わりなき、郵便配達というルーティンワーク。
かつてあれほど忌み嫌い、唾した、欺瞞と怠慢の巣窟である郵便局の仕事こそが、僕が唯一勤め得る職業であり、これから先も続いていく東京での生活の、その基底をなすものとなる運命であったとは、今更ながらに気付かされた。
自分がひとかたならぬ存在であることの証明に、野心を抱いて上京したものの、怠惰と傲慢の日々以外に積み重ねたものがない僕の行き着く先など、挫折と酒浸りの生活と相場が決まっていた。
かくして、故郷を捨て、栄光にも拒絶された自分が、それでも東京にかじりつき、飛び込んだ郵便局の仕事。
数年の月日をそこで過ごし、仕事と自分への憎悪がピークに達する中で勝ち取った、保育士の資格。
保育園での子供達との出会い。嫁との出会い。娘の誕生。
そして、舞い戻った郵便局。
東京での生活はこんなにも目まぐるしく、騒がしく、僕を四方八方に引きずり回してゆく。
気付くと、自分が夢に挫折した半端者であることなど忘れてしまっていた。
そう。そんなことはもうどうでもいいのだ。
なぜなら、かつての自分が抱いていた自分への認識も、追い求めた名声も、全ては自分が生み出した虚像であり幻想だからだ。
そして、今自分が抱いている自分への認識も、追い求めようとしているものも、いずれはうつろい、時の彼方へと消え去っていく。
それならばいっそ、そんな不確かなものに頼るのではなく、幼子の探索活動のように、恥を恐れず、己の好奇心を満たしてゆけばいいのだ。
やりたいことは山ほどあるが、今の自分の最優先事項は、家族の安寧と幸福。
そして、家族を守り幸せにするために、自分にできることに心を注ぐ日々が、自分を高めてくれていることを実感する今日この頃でもある。
そんな自分にぴったりの仕事、郵便配達。
来る日も来る日も終わりなきルーティンワーク。
家族のために必要な金と時間は充分手に入る。
あんなにも忌み嫌い、唾した郵便局の仕事が、今では自分の大切な家族を守ってくれてるとは。
かつて、自分と世の中に対する憎悪だらけの積み荷だった郵便局の赤いバイクは、今では幸せと座布団を運ぶ山〇隆夫となって、今日も東京の街を彷徨するのである。